響子さんの書斎 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2004-11-17

[]幻想的作品のための10のお題『死者は還る』 幻想的作品のための10のお題『死者は還る』 - 響子さんの書斎 を含むブックマーク


 標高四千メートルの山から見る空は紺碧に染まり、黄土色に濁った川に寺院がゆらめいていた。

 みやげ物屋が並んでいる路には虚ろな目をした老人たちが木陰に座っている。指先が腐っている老婆、片足をなくした老人、髪が抜け落ち白く濁った目をしたもの、みな病気をもっている乞食だった。

 金属製の皿を差しだしては、哀れをさそう声で慈悲を乞う。その声は通り過ぎていく人の流れにとりのこされて、むなしく響いている。

 乞食の声には立ち止まろうとはしなかった人々の足がふいにとまった。瞬く間に人垣ができはじめる。幾重にも人で囲まれたなか、赤い花が手折られたように少女が石畳に横たわっていた。黒髪がまだ幼い顔に艶めかしくかかっている。胸に深々と突き刺さった刃から、少女の纏ったサリーよりも赤い粘つく流れが、集まった人々の足先を濡らしていく。一人の青年が歩み出て、少女の時を止めてしまった、見開いたままの目をしずかに閉ざしてやった。

 

 岸辺には円型の石檀がある。薪が積まれ、藁が布団のように覆っていた。白衣を着た僧侶が、藁に火をつけると、黒い煙がたなびき、薪から炎が吹き出す。少女の纏うサリーが彼岸花のように赤く、炎の愛撫をうけてゆらめき、燃えていく。

 

 僧侶は無言で、灰を川に落としている。一カ所にかたまっていた灰は、じきにゆらゆらと流れていった。

 いつしか、川の水は太陽に照らされ蒸発するだろう。天に昇り、また雨となって地上に降り注ぐだろう。

 灰が舞っているなかで、女たちがお喋りをしながら洗濯していた。

 巨大な火の塊が川に没し、赤く染まった石畳の路をゆく人々を照らしている。

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 これは、10年前に書いたやつです(^_^;。ネパールの写真集をみながら情景をスケッチしただけなんでストーリーはないです。死者は灰になって、大地へ水へ還っていく。生命は循環している。命の営みのそばに死がある。そういうのを書きたかったんだと思います。

瀬戸見瀬戸見2004/11/17 11:52こんにちは、響子さん。写真や絵画を見て文章が浮かぶときってありますよねー。そしてネパールといえば少女神クマリが気になるところです。この『死者は還る』のなかでも、赤い色が艶めかしくも鮮烈な印象で描かれていますが、私のなかのあちらの国の神さまの持つ赤のイメージと重なるような気がして、ただきれいなだけではない神秘性を感じました。

響子響子2004/11/17 23:14瀬戸見さん、コメントありがとうございます。これは情景描写の修行に書いたものなんですが、ネパールの写真集を見ていなければ、赤い色を強調してはいなかったと思います。赤、それは煉瓦の色、生贄の血がこびりついた壁の陰惨な色、女たちが纏う鮮やかなサリーの色、落日の色、その死と生が背中合わせの鮮烈な色に圧倒されます。行ったことないんですけどね。クマリは私も気になってますよー。女神でなくなった少女たちのその後はどうなのかな。ちゃんと人間として生きられるのかな。

冬木洋子冬木洋子2004/11/18 15:21風景や乞食たちや行きかう人々から、倒れている少女へ、更に流れる血へ……というカメラワーク(?)がいいですね。そして最後にまた洗濯をしている人なんかが出てくるところがいいです。こういう事件もあたりまえに含めて営々と生活が営まれている感じが、かえって夢幻的な余韻を残します。下の、『湖の乙女』の話も、すごく読みたいです。響子さんの作品には本当に『ロマンチック』がいっぱいありますよね。私は、自分が非ロマンチック体質なので、他人が描いてくれる幻想やロマンチックに、すごく憧れます。だから響子さんの書くものが好きならしいです。

響子響子2004/11/19 00:13冬木さん、コメントありがとうございます。ネパールの写真集の紀行文に赤いサリーの少女が殺されるというエピソードがあって、その情景が鮮やかに見えたので、書いてみたいと思ったのでした。いつもズバリと汲み取ってくださって、嬉しいです。
私は根っからロマンティストなんでしょうね。愛し合いながらもすれ違うドラマティックな悲劇と叙情性のあるロマンティック、こんなの現実の恋愛ではありえない……だから小説で書きたいし読みたいんでしょう(笑)。そして、現代ではなくて、ここではないどこか遠い世界、遠い昔だからこそ、胸焦がれるほど憧れるわけで。この胸を締めつける感覚を共有できたなら、書いていてこれほど幸せなことはないです(*^_^*)。